大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成10年(ワ)13018号 判決

反訴原告

松尾榮子

反訴被告

太刀川美栄子

主文

一  反訴被告は、反訴原告に対し、金一六万七五四二円及び内金一四万七五四二円に対する平成一〇年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを九分し、その八を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告は、反訴原告に対し、金一三九万六三〇六円及び内金一一九万六三〇六円に対する平成一〇年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、反訴被告(以下、単に「被告」という。)運転の普通乗用自動車が反訴原告(以下、単に「原告」という。)運転の普通乗用自動車に追突した事故につき、原告が、被告に対し、民法七〇九条に基づいて損害賠償を請求した事案である(なお、本件は、取下げによって終了した平成一〇年(ワ)第九九一五号債務不存在確認請求事件の反訴である。)。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成九年九月八日午後〇時〇五分頃

場所 大阪府枚方市南楠葉一丁目二六番一〇号先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(京都五三せ八〇六)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告

事故車両二 普通乗用自動車(京都五九た六一一)(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告

態様 被告車両が原告車両に追突した。

2  損害の填補

原告は、本件事故に関し、自賠責保険から一二〇万円の支払を受けた。

二  争点

1  本件事故の態様(傷害の発生の有無に関連して)

(原告の主張)

原告が信号待ちのため停車していたところ、原告車両の後方約七ないし八メートルで一旦停止した被告車両がブレーキとアクセルの踏み間違いにより、発進し追突してきた。

被告には、間違ってアクセルを踏んだ過失がある。

(被告の主張)

被告車両は、原告車両の後ろに信号待ちのため停車した。停車中被告のブレーキの踏みが甘くなりオートマチック車であったため、被告車両がトロトロと前進し、原告車両に追突した。被告車両が停車した際の原告車両と被告車両との車間距離は約二・四メートルであるし、被告がブレーキとアクセルとを踏み間違ったことなどない。

2  原告の損害

(原告の主張)

原告は、本件事故により頸椎捻挫、腰椎捻挫等の傷害を負い、次の損害を被った。

(一) 治療費 合計六九万〇六二六円

(1) 関西医科大学附属男山病院(以下「男山病院」という。) 六四万五二一〇円

(2) 大手前病院 四万五四一六円

(二) 文書料(大手前病院) 一五七五円

(三) 通院交通費(大手前病院) 七万〇四〇〇円

(四) 休業損害 六一万三七一三円

原告は、専業主婦であるが通院実日数(一三六日)につき、その半日は家事労働に従事することができなかった。

原告の休業損害算定上の基礎収入(年額)は三二九万四二〇〇円とするのが相当である。

(計算式) 3,294,200×136/365×0.5=613,713

(一円未満切捨て)

(五) 傷害慰謝料 一〇二万円

(六) 弁護士費用 二〇万円

よって、原告は、被告に対し、右損害合計額二五九万六三一四円から既払額一二〇万円を控除した一三九万六三一四円の内金一三九万六三〇六円及び内金一一九万六三〇六円(一三九万六三〇六円から弁護士費用分の二〇万円を控除したもの)に対する本件事故日よりも後の日である平成一〇年一二月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張)

争う。

本件事故による原告の受傷はない。

原告には、先天的な痙性麻痺の外には何ら異常はない。

たとえ、何らかの負傷があったとしても、平成九年一二月末日までの治療が本件事故と因果関係のあるものである。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

前記争いのない事実、証拠(甲二、三1ないし5、一〇、乙一、被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府枚方市南楠葉一丁目二六番一〇号先路上である。原告は、平成九年九月八日午後〇時〇五分頃、原告車両を運転して本件事故現場で信号待ちのために原告車両を停止させていたところ、原告車両の後方約二・四メートルに停車した被告車両(オートマチック車)がブレーキの踏みが甘かったため前進を始め、原告車両に追突した。右衝突により、原告車両は、リヤバンパーに損傷を受け、五万六〇六〇円の修理費を要する損害を被った。

以上のとおり認められる。

この点、原告は、原告車両の後方約七ないし八メートルで一旦停止した被告車両がブレーキとアクセルの踏み間違いにより、発進し原告車両に追突してきたと主張し、本人尋問においても、事故後直ちに、被告が、「ボーッとしてアクセルとブレーキを踏み間違えました。すみません。」という趣旨のことを言っていたと供述するが、甲第一〇号証(被害者供述調書)においては、「信号待ち停止中に後方から追突された事故ですが、相手の人がブレーキ操作を確実にしていなかったということを聞いています。」と述べており、これに照らすと、原告の本人尋問における供述はにわかに措信することができない。他に右認定事実を覆すに足りる証拠はない。

二  争点2について(原告の損害)

1  治療経過等

証拠(甲四1、五1、2、六1、七1、八、乙二ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告(昭和二二年一月一日生、本件事故当時五〇歳)は、本件事故日の翌日である平成九年九月九日、男山病院で診察を受け、前日追突事故に遭ったこと、事故の態様は停車していた後方車が急にアクセルを踏んで飛び出してきて原告の車両に追突してきたものであることを説明した上、頸部から左肩にかけての鈍痛、背部から左臀部にかけての痛みを訴えた。同日付の診断書によれば、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷病名で向後約五日間の安静加療を要する見込みとされた。初診時、頸椎及び腰椎のX線写真が撮られた外、関節可動域、各種反射、知覚・運動を調べる検査等が行われ、後日にはMRI検査も実施されたが、ホフマン反射(錐体路障害時にみられる。)に異常が認められた以外は特に異常は認められず、医師は、原告には先天的な痙性(錐体路障害が原因である。)がある外、やや心理的な面が強いのではないかという意見を持った。平成九年一二月八日付の診断書では、同月末日をもって治癒見込みとされ、同月四日からは理学療法も開始されたが、同月末日では治癒の診断には達しなかった。その後も理学療法が継続されたが、頸部交感神経亢進症状が続き、同病院の医師は、平成一〇年四月八日付の診断書では、理学療法の効果は乏しいと指摘し、同年六月一二日付の診断書では、理学療法から少しずつ離れて生活の中で症状が改善するように指導していると治療経過を記載している。原告は、同病院には平成一〇年八月二九日まで通院した。

平成一〇年九月四日からは大手前病院に転医し、同月八日には、頸部捻挫、頸肩腕症候群の傷病名により、向後三か月間の加療・経過観察が必要と診断され、理学療法等による治療を受けている。

自賠責保険からは、原告に対し、本件事故に関し、一二〇万円が支払われた。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  本件事故との因果関係

前認定事実によれば、原告の症状は、本件事故による頸部への影響と先天的な痙性麻痺とが相まって発現したものであると認められるが、治療経過にかんがみると、大手前病院へ転医した以降の治療、通院、休業等と本件事故との間には相当因果関係の存在を認めるには足りないというべきである。

3  素因減額

被告は、本件事故による原告の受傷はないとし、かつ、原告には先天的と認められる痙性麻痺の外には何ら異常はないと主張しているので、右主張にはいわゆる素因減額の主張が含まれるものと解される。そして、前認定事実によれば、原告には、先天的痙性麻痺があり、このような素因が、本件事故と相当因果関係のある範囲の原告の症状の発現及び継続についても寄与するところが相当程度大きかったと認められるから、民法七二二条二項の類推適用により三割の寄与度減額を行うのが相当である。

4  損害額(素因減額前)

(一) 治療費 五五万七五九〇円

原告は、本件事故により、男山病院の治療費として五五万七五九〇円を要したと認められる(甲四2、五3、六2、七2、乙六、七、)。右認定以上に本件事故と相当因果関係のある治療費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(二) 文書料(大手前病院) 認められない。

本件事故と相当因果関係のある右文書費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(三) 通院交通費(大手前病院) 認められない。

本件事故と相当因果関係のある右通院交通費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(四) 休業損害 三四万七四七〇円

原告の休業損害算定上の基礎収入については、原告の年齢(本件事故当時五〇歳)及び従事する労働(家事労働)にかんがみると、原告の主張どおり年額三二九万四二〇〇円とするのが相当である。原告は、男山病院への通院の実日数は七七日であるところ(甲四1、2、五1ないし3、六1、2、七1、2、乙三、四、六、七)、原告は右実日数につき、半日休業を要したと認められるから(弁論の全趣旨)、休業損害は次の計算式のとおりとなる。

(計算式)3,294,200×77/365×0.5=347,470

(一円未満切捨て)

(五) 傷害慰謝料 一〇二万円

原告の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は原告の主張どおり一〇二万円が相当である。

5  損害額(素因減額後)

以上掲げた損害額の合計は一九二万五〇六〇円であるところ、前記の次第で三割の素因減額を行うと、素因減額後の損害額は一三四万七五四二円となる。

6  損害額(損害の填補控除後)

原告は、自賠責保険から、本件事故に関し、一二〇万円の支払を受けているから、これを素因減額後の損害額一三四万七五四二円から控除すると、原告の損害額(弁護士費用加算前)は一四万七五四二円となる。

7  弁護士費用 二万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき弁護士費用は二万円をもって相当と認める。

三  結論

以上の次第で、原告の請求は、被告に対し、金一六万七五四二円及び内金一四万七五四二円に対する本件事故日以降の日である平成一〇年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例